1.圏外へ(1’50”) 2.冬の遠距離走者(2’50”) 3.ひとの風(2’10”) 4.脈をみるうた(4’00”) 5.こころの包帯おもううた(2’30”) ---------- 2009年、関西大学グリークラブ(指揮=西岡茂樹)による委嘱初演。 萩京子による珍しい男声合唱作品である。 平易ながらも心に染み入る言葉と作曲家ならではの少ない音の中に美しさが光る音楽である。5曲それぞれが独立した性格を持っているので、抜粋演奏でも十分に楽しむことが可能である。少人数の合唱団にも最適。 グレード:初〜中級 演奏時間:約13分20秒 <まえがき> 関西を中心に活動されている合唱指揮者の西岡茂樹さんは、2000年頃より次々に、私に合唱曲を委嘱してくださり、女声合唱曲、混声合唱曲、児童合唱曲、混声と児童が加わった合唱曲などを作曲する機会に恵まれました。そして2008年に、当時西岡さんが指揮をされていた関西大学グリークラブからの委嘱作品として、この『冬の遠距離走者』を作曲し、ついに男声合唱曲も西岡プロデュース作品群に加わることとなりました。 混声合唱曲や女声合唱曲に比べて男声合唱曲を作曲する機会は少ないのですが、男声合唱ならではの「詩」を選ぶことは、うれしい作業でした。男声合唱ならではの「詩」という考え方、あるいは感じ方も、多少偏った思い込みでもあり、今となっては少し反省するのですが、当時は硬質な、少し攻撃性のある詩で作曲してみたいと思ったのでした。ずっと気になっていて、でもなかなか取り組めなかった木島始さんの「圏外へ」や「冬の遠距離走者」に挑戦しようという気持ちになり、それを前半に置き、後半はやはり木島始さんの詩で、柔らかさのある「ひとの風」「脈をみるうた」「こころの包帯おもううた」につなげて行くというこの曲集の輪郭が私なりに見えてきました。 私が歌にしたいと思う詩は、耳から聞いて伝わることばで書かれた詩であることがほとんどです。漢字の熟語の少ない「やまとことば」中心に書かれた詩を歌にしたいと思いますので、字を見ないと理解が難しい詩は敬遠してきました。しかし「冬の遠距離走者」はどうでしょう。漢字だらけ。しかもちょっとやそっとでは読むことも難しい。しかしこの詩に込められた熱量と疾走感に惹きつけられます。歌にしてみたい。でも無理だな。でもしてみたい・・・とずっと傍らにおいてあった詩です。空気の冷たさと精神の熱さ。時代を駆け抜けていくちから。何度読んでも意味はよくわかりませんが、この走る人とともに自分も走っているような感覚になる。そして「おまえ」ということばが現れた時の衝撃。それは自分? そして「放火犯だ」と突きつけられる感覚。突きつける側でありながら突きつけられる側にもなる。木島始さんの若いころに書かれたこの詩のとんがったことばのちからに圧倒されます。「厳寒」「軽侮」「潜熱」・・・これらのことばは字を見ないと理解できませんが、その音にも魅力があります。歌う人は「ゲンカン」「ケイブ」「センネツ」という音に自分なりの思いを込め、聞く人はその音からイメージを受け止める。歌を聞いた後から詩を読むと、また違った味わい方ができる。歌を通じて詩とそんなふうに出会うのも良いのではないかと思います。 この曲集を通じて、男声合唱の新しい魅力を発見していただけることを願っています。(萩 京子)
萩京子
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