1. 遠望 (4’00”) 2. 空 (4’20”) 3. 夕暗の中にて (2’20”) 4. 智慧の湖 (4’20”) ---------- 2020年度第31回朝日作曲賞受賞作品。 終曲の「智慧の湖」は2022年度全日本合唱コンクールの課題曲G4として、多くの合唱団によって演奏された。 1曲目「遠望」の霞んだ風景から曲ははじまり、組曲が進行するにつれて、視界が広がっていく様相を音楽で緻密に表現している。 新しくモダンな響きが特徴的な混声合唱作品。全4曲。 グレード:中級 演奏時間:約15分
<まえがき> この作品は2020年度の朝日作曲賞に応募するため作曲しました。私自身それまで合唱に触れたことがほとんどなかったため、詩を選ぶ段階から曲の終止線を引くまで常に疑問だらけでした。実際に提出した楽譜は正直あまり整ったものではなかったのですが、演奏審査会では演奏家の皆様がそれでも熱心に取り組んでくださり、高いクオリティにまで仕上げてくださったことで、身に余る賞を受賞することができました。指揮の清水敬一さん、ピアノの小田裕之さん、そして松原混声合唱団の方々に深く感謝申し上げます。 組曲《遠望》は〈遠望〉〈空〉〈夕暗の中にて〉〈智慧の湖〉の全4曲から成っていますが、用いた詩については、4編すべてを高橋元吉(1893〜1965)の全詩集第一巻『遠望』から選びました。これらの4編は、いずれも元吉が創作した詩のうちの最初期(1910〜20年代)に書かれました。今から約100年前に作られた詩に、どのようにアプローチしようかかなり悩みましたが、あまり時代のスタイルや背景にとらわれず、自分の思うやり方を存分に試しました。かと言って、もちろん無責任に音を並べたわけではありません。選んだ詩の大部分では、誰か(あるいは何か)が「さびしさ」を抱えています。その表現や表情にならい、曲全体を通してどこかさびしさをまとった音楽にしようと心がけました。とりわけ前半の2曲はその特徴が顕著にあらわれているかと思います。またいたるところで現れる七度音程などを含んだ特徴的な響きが、言葉の内容に沿って動き方や性格を変えながら、ひたすら流れていきます。 組曲全体をみてみると、4曲それぞれが異なる性格をもち、少しいびつに感じられるほど各曲のスタイルに違いがあります。しかしながら曲中では常に遠くにあるものを見つめているため、「遠くのものをひたすら眺める」という行為を、それぞれの曲が異なるスタイルによって映し出そうとしていると言えます。そして、最終的には終曲の最後のセクションへ到達する(ぼやーっと眺めていたものが終曲で鮮明に見える)というひとつの大きなストーリーに基づいて組曲全体が構築されています。 組曲のタイトルについては、どの詩のなかでも「遠く」などのような距離を感じさせる表現が為されていること、またこれらの詩が詩集の第一巻『遠望』にまとめられていることから、詩集のタイトルと同様に《遠望》としました。是非、遠く手の届かないところにあるものに対して「私」はどのような言葉でそれを説明し、その性格を描いているのか、そしてどのようにして音がそこに介入しているのかを注意深く感じとっていただきたいです。 演奏にあたっては、言葉によって表現されている感情や動作、音によって表現されている広がりや遠近感を考えながら取り組んでみてください。また音型やテーマの展開の仕方(一度出てきた音型や和音が後にどう活きているか)や、音色や温度の違い、音楽がどこへ到達するのかなどを意識していただくと、曲が綺麗にまとまると思います。未熟な作品ではありますが、どこか一部分でも素敵だと感じていただければ嬉しいです。(根岸宏輔)
根岸宏輔
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