1.あいたくて (3'45"") 2.さがして (4'20"") 3.いのち (2'10"") 4.そばにいる (4'40"") 5.じぶんのための子守歌 (3'50"") ---------- 2022年1月、ensemble PMSによる委嘱初演(指揮は作曲者自身)。 曲集のタイトルは1曲目「あいたくて」の一節から採られた。大切に紡がれた言葉の数々からインスピレーションを受け、「生の円環」をテーマに作られた曲集である。作曲者ならではの推進力あるメロディーと透明感のあるハーモニーが聴き手の心を揺さぶる作りとなっている。世代問わず演奏したい、新たな混声合唱曲集である。 グレード:中級 演奏時間:約19分
<まえがき> 『工藤直子さんの詩による大人のための混声合唱曲集を』とのリクエストを頂戴し、2018年にその第一曲目として「あいたくて」を作曲。この詩には多くの作曲家が音を紡いでおり、同年12月に行われたensemble PMSの演奏会では、木下牧子さん・相澤直人さんによる「あいたくて」と並べて拙作を初演するステージが設けられた。あれから数年の歳月が流れ、この間に「さがして」・「いのち」・「そばにいる」・「じぶんのための子守歌」の4曲が誕生し、2021年夏、一つの曲集が完成に至った。5つの詩に一貫して流れている“いのち”を巡る物語。私たちには、生まれる前に交わした約束があったのだろうか――これは誰にも分からない。しかし私たちは「みえないことづけ」を握りしめて今日も生き、そして魂はいつかふるさとへ還っていく――工藤直子さんが紡がれている言葉の端々に、この“いのちの円環”の存在が滲むように感じられ、決して難解な言葉ではなくシンプルな言葉で綴られる世界の温度感や透明感も相まって私は感化され、誘われるように音楽の律動が生まれていった。 「あいたくて」:この世に生を受ける≒天から魂がおりてくるようなイメージでピアノ前奏を作曲。詩自体にはスタティックな印象を受けるが、これをそのまま音楽に投影することよりも、その背景に広がるものを想像し、ある種のコントラストと共に世界を描くことを主眼とした。 「さがして」:詩中の“わたしは わたしをさがして 迷子になる”というセンテンスをはじめ、「あいたくて」との共通項を感じる詩。天の川を見上げる凛とした空気感と、そこから思いが溢れてゆくドラマを、音楽により描きたいと思った。 「いのち」:曲集全体のテーマでもある“いのち”の巡りが描かれてゆく詩。12/8拍子の楽想は、この“巡り”が源泉となった。インテルメッツォ的な楽章になることを念頭に紡いだ小品。 「そばにいる」:“五歳のわたし”を回想し、そこを起点に広がってゆく世界観に感化されて作曲。工藤直子さんの大らかな語り口が印象的で、その温度感は音楽にも作用している。全曲中、最もスケールの大きな作品となった。 「じぶんのための子守歌」:魂がふるさとへ還っていく際、人という存在を俯瞰しているような――この詩の大らかさに導かれるように、筆を進めた一曲。いのちは巡り旅が続いていくが如く、12音全てを巡る完全5度堆積による旋律が曲尾にピアノで描かれ、幕を閉じる。 ensemble PMSとの出逢いから10年。曲集を作曲する機を与えてくださり、そしてコロナ禍を乗り越えつつ共に初演を迎えられたことに、言葉にし得ぬ喜びと感謝を心に抱いている。そして、真摯に音楽と向き合い美しい音を紡いでくださったピアニストの渡辺研一郎さんにも、改めて心より御礼を申し上げたい。(三宅悠太)
三宅悠太
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