1. 陽炎 (3’50”) 2. 窓のとなりに (3’20”) 3. 飛ぶ (3’10”) 4. 海の比喩 (5’10”) 5. 合唱 (3’10”) ---------- 「合唱団ひぐらし第27回定期演奏会『いろはのお』(2021年7月17日)」にて委嘱初演。コロナ禍におけるカワイ出版web合唱企画「その場でハモろう」提供作品の「合唱」を終曲におき、曲集として構成された。各曲パート内での分割がなく、シンプルな音楽進行であるため、どの合唱団でも取り組みやすい混声四部合唱作品となっている。「合唱」は他の編成との合同曲やアンコール曲としても最適。全5曲。 グレード:初〜中級 演奏時間:約18分40秒
<まえがき> 誰にとっても今までにない状況が訪れていた2020年の春。人々が集まって歌う場所や、その先で生まれるつながりのことを思いながら過ごしていた私にもそれは例外なくやってきました。新曲の初演や講習会などが次々と中止になり、しばらくはあっけにとられるばかりの日々。そんな中、周りでもオンライン練習やテレコーラス(多重録音による合唱)に取り組む動きが起こりはじめ、それらに触れていく中で自分の心持ちが少しずつ変化していくのがわかりました。何かを背負う、というよりもまず「自分のため」が最初であれば何かできるかもしれない。いつかこの状況が終わったとき、自分たちや合唱を愛する人たちのために「木」を植えておこう、と。そうしてできあがったのが第5曲となる「合唱」でした。この作品のテキストは、私の母校である東京学芸大学にて谷川俊太郎さんによる詩と音楽の講座が行われた際の記録本に、書き下ろしで収載されたものです(「声が世界を抱きしめます―谷川俊太郎 詩・音楽・合唱を語る」東京学芸大学出版会)。初演は2020年6月に作曲者を含む有志のテレコーラスにより、YouTubeでの動画公開という形で行われました。その後、カワイ出版の「その場でハモろう!」プロジェクトの1曲として楽譜配信が始まり、女声・男声・同声二部の各バージョンも制作しました。 そんな中、私の所属する「合唱団ひぐらし」でも、2ヶ月以上の練習休止期間を経て練習が再開する運びとなり、活動再開の第一歩として選ばれたのがこの曲でした。全員マスクを着用し、距離を取ったうえで人数もふだんの半数ほどでしたが、それでも一つの場を共有して合唱の音が鳴った、という瞬間のいとおしさに変わりはありません。そして季節がひとつ、またひとつと変わっていくうちに指揮者の一人である野本立人さんから「合唱」を終曲に置いた曲集を…とのリクエストを頂き、それは自分の中で湧き起こっていた「もっと木を植えよう」という思いと重なるものがありました。曲に何かを背負わせる、ということはしたくない。人々からこの時代の記憶が薄れていったときでも、何か歌い継がれるものを書きたかった、というものです。そうして書き足された残りの4曲も「合唱」と同じくdiv.のない、拙作としてはごくシンプルな書法による作品となりました。今回出版となったことで、この5本の木により多くの人が集まる日を楽しみにしています。(田中達也)
田中達也
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