Summertime (2'30"") ---------- ジョージ・ガーシュウィンの唯一のオペラ「ポーギーとベス」の中でクララが赤ん坊に歌う有名なアリア。ガーシュウィンの楽曲の中で最も演奏されているナンバーといって過言ではない名曲をおしゃれな混声合唱でアレンジ。厳かに始まった音楽はやがてファンキーな曲調となってラストに向かって高揚していく。 グレード:中級 演奏時間:約2分30秒
<まえがき> “Summertime”(サマータイム)はジョージ・ガーシュウィンが晩年に仕上げたオペラ『ポーギーとベス』冒頭で赤ん坊のための子守唄として印象的に登場します。オペラの舞台設定は黒人奴隷の名残があり人種差別も著しかった1900年代前半アメリカ南部。そのため、この曲も今では一般的な12小節のブルース進行ではなく、クラシックで馴染みがあり、且つ、ラグタイム(アフリカ系がルーツの初期のジャズスタイル)で定番の16小節ブルースの形式がとられています。前半は耳馴染みのある典型的なシンプルなブルースの和声進行から始まることにより、最後の4小節の和声進行が変化に富み印象的に感じられる仕掛けになっています。そしてそれらの形式的な和声進行の上に、さらにシンプルなダイアトニック(臨時記号を一切伴わない)メロディーが乗せられているのがこの曲の音楽的特性です。物語の原作者ヘイワードによってアメリカ南部訛りの平易な口語体で書かれている詩は2連からなり、それぞれが1つのコーラスを成しています。前半は幼子に歌いかける子守唄でありながらもその時代のアフリカ系アメリカ人の苦しい生活状況や南部の長閑な光景を窺い知ることができ、後半ではいつか苦しい生活の中から抜け出して大きな世界へと羽ばたいてほしいと、我が子に託す未来への希望を歌っています。 このアレンジでもオリジナルの構成に基づき、最初は子供に歌いかけるように叙情的に歌ってもらえたらと思います。メロディーのそれぞれのフレーズを丁寧に語るように歌って表現してみてください。コーラスが主役となるように、ピアノは合いの手・脇役として寄り添うように。言葉やフレーズの揺れに沿って歌いつつ、徐々に安定した一定のテンポへと着地するように意識しながら進行してみましょう。ゆっくりめのテンポでスウィングする場合は、短い音が跳ねてしまわないよう、拍裏の短い音から次の拍あたまの音へという方向性を意識すると自然なスウィングのリズムになりますよ。Dからはスウィングではなくストレートの一定のリズムで、ベースやドラムの音を想像しながらソウルやファンクのグルーヴを感じながら歌ってみて下さい。ピアノは安定したベースラインとリズムを際立たせるように意識し、主体的にグルーヴ感を創り出して全体をリードしてください。コーラスはそのグルーヴに乗りつつキレ良いリズムで縦をカッチリと合わせるとかっこよく決まります。2拍目と4拍目のビートを意識したり、スネアドラムの代わりとして手拍子やスナップを入れるのもおすすめです。終盤、転調をしてより一層盛り上げて高揚感を持ったままエンディングへと向かってください。 20世紀を代表するオペラ、また、商業的ミュージカルの先駆けとされる『ポーギーとベス』ですが、“オペラ”として発表された作品群の中の1曲が、単独曲としてこれまでにジャンルの垣根を越えて多くのアーティストに取り上げられているのは、多くの人々が普遍的に共感できる何らかの力がこの曲にあったからに違いありません。ジョージ・ガーシュウィンが円熟期に満を持して臨んだオペラ創作として選んだのは、当時マイノリティーであったコミュニティーを題材とした作品でした。創作から100年近くの月日を経てグローバル化がより一層加速した結果、ここアジアの一国日本で、合唱という形態で、そして当時の黒人と同じく形は見えぬ閉塞感を打ち破る一縷の希望としてこの曲を歌いあげる時代が来たこと、亡きガーシュウィンはどう感じるだろうかと思いを馳せるのも、この曲の内包する不思議な力のせいかもしれません。(松波千映子)
松波千映子:編曲
|