1. 木(詩:金子みすゞ) 2. 木(詩:高良留美子) 3. 木(詩:辻征夫) 4. 木は旅が好き(詩:茨木のり子) 5. きおくの木(詩:和合亮一) ---------- 2019年7月、板橋区混声合唱団により委嘱初演された。 「木」をテーマに、5つの美しい詩とそこに寄り添うような音楽。各詩人の異なる世界観を大事にしながら、5曲それぞれ様々なスタイルで音楽が描かれている。4曲目を頂点とした構成で、全体像も秀逸な作品。技術的にも歌いやすく、磨けば磨くほど合唱団それぞれの美しさが引き立つような曲集にもなっている。 終曲のみア・カペラ。 グレード:中級 演奏時間:約19分10秒
<まえがき> 同じ場所に佇み生きる「木」という存在に、私達は自らの生を重ね、想像を巡らせる。そして多くの詩人達は銘々「木」への言葉を紡ぎ、「木」と私達とを新たな次元で繋いでくれる。今作は(2019年作曲時)40年という歴史を重ねてこられた板橋区混声合唱団へのオマージュとして作曲した曲集であり、「木」をテーマに描かれている幾多の詩の中から世界観や角度の異なる5つの美しい詩を選び、音を紡いだものである。重なる年輪の如く豊饒な響きを奏でるこの合唱団の素肌が生きる音楽を目指し、筆を進めた。 1.「木」 (詩:金子みすゞ) 木への眼差し、そして滲み溢れるような愛が感じられる僅か9行の詩。言葉の質感やキャラクタが音楽に投影された、ワルツ風3拍子による小品。 2.「木」 (詩:高良留美子) ?まだ見えないもの’への視点で描かれるこの詩の端々に、静の中に佇んでいる動の存在・エネルギーを感じる。木が描かれるのは4連のうちの1連目のみであるが、木という存在を起点に視点が広がっていくこの詩のドラマ性に感化され、広がりのある作品を書くことを主眼とした。 3.「木」 (詩:辻 征夫) 辻征夫18歳時の詩であるが、なんという孤高さと凛とした美しき緊張感(!)…この詩に接する折、思わず背筋が伸びてしまう。一つ一つの言葉が放つエネルギーや語感の魅力を生かすべく音を紡いだ作品で、詩のフォルムや展開は音楽構造にも多分に反映されている。 4.「木は旅が好き」 (詩:茨木のり子) 一つの物語の如く描かれる、木の生。J. S. Bachの〈平均律クラヴィーア曲集第1巻 第1番Prelude〉の和声・音型を引用した3部形式による作品で(放浪への憧れと共に風にそよぐ木の姿と、Preludeの流れるような上行音形ピアニズムのイメージを重ねたものである)、今曲集中でスケール的にも時間的にも最も大規模な曲となっている。 5.「きおくの木」 (詩:和合亮一) 詩が内包するスタティックな空気感と儚さに、言いようのない美しさを感じる。板橋区混声合唱団が奏でる、追憶の木。40年という歳月を重ねられてこられたこの合唱団の美しさがいっそう引き立つ終曲を書きたいと思い、筆を進めた。曲集中、唯一のア・カペラ作品となった。 板橋区混声合唱団の皆様、楽譜を手に取ってくださった皆様へ、心からの感謝と共に。(三宅悠太)
三宅悠太
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