1. 花こそは心のいこい(福田須磨子)(5’30”) 2. 天空歌 (永瀬清子) (3’45”) 3. 春 (新川和江) (4’30”) ---------- どの曲もオリジナルは別々の機会に作曲された女声合唱作品であるが、今回混声合唱として生まれ変わる際にそれぞれの繋がりを意識して編まれた。 3人の女性詩人が記したテキストは女性ならではの細やかな視点で描かれており、今回、男声の音色が加わったことで、新しい響が生み出されている。 グレード:中級 演奏時間:約14分
<まえがき> これら3つの作品は、もともと女声合唱曲として作曲したもので、私の作曲歴の初期に当たる作品も含まれています。新たに混声版の譜面を作るにあたっては、若い時期の私の未熟さを点検する作業を伴う必要がありましたが、そうしてより良いものを練り上げていく作業は総じて楽しいものでした。 「花こそは心のいこい」は3曲の中では最も新しく、2013年に作曲した女声合唱曲集『世界中の女たちよ』に収録されているものがオリジナルです。詩人の福田須磨子(1922?1974)は長崎の被爆者で、原爆の体験や原水爆を告発する作品を世に送り出しました。「花こそは心のいこい」には詩人の祈りが静かに刻まれています。 「天空歌」(詩=永瀬清子[1906?1995])のオリジナルは2002年作曲の女声合唱曲集『空の名前』に収録されているものです。この詩は1940?1947年の創作による詩集『大いなる樹木』に収められたもので、戦中戦後の混乱の中で書かれたことが想像されます。鬱屈した日々の中にあっても、詩人の心の中には芸術の炎が燃えていたのでしょう。詩の中でのみ自身の精神を解放することができた時代であったのかも知れません。 「春」は2006年に作曲した女声合唱曲がオリジナルです。新川和江(1929?)の処女詩集『睡り椅子』(1953年刊行)に収められている最初期の詩です。詩の冒頭で「わたしはもう悲しむまい」と歌われます。作詩当時の若き詩人にどのような深い悲しみがあったのかは分かりませんが、その悲しみを乗り越えて生きようとする青々とした力強さを感じさせる詩です。 このようにオリジナルは別々の機会に作曲されたものですが、ひとつのステージを成立させるために、詩の内容のゆるやかなつながりを意識して3曲の構成を考えました。3つとも女性詩人であるというのは大きな共通点ですが、女性も男性も心の根本はさして変わりがないというのが私の考え方であり、「女性詩人」という事実を大きく掲げることには憚りがあります。 一方で、女性が生きづらい時代(それは現在も続いていると思いますが)の中で詩作を続けた3人の詩人には、共通する力強さが読み取れるのではないかという思いもあります。3曲続けて演奏される中で、明日への活力のようなものを感じていただけることがあれば、最高の喜びです。 なお、出版にあたって『女性詩人による三つの譚歌』という曲集名を付けました。本書には副題として3つの曲名が併記されていますが、例えば演奏会の広告やプログラムなどに記載する場合は冗長かと思いますので副題を省いても差し支えありません。(信長貴富)
信長貴富
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