1. 朝のパン (2’30”) 2. 空をかついで (4’45”) 3. ゆりかごのうた (2’30”) 4. ひめごと (4’00”) 5. 太陽のほとり (4’45”) ---------- 2017年、仙台市の「女声合唱団木声会」の委嘱作品。 「人びとの思いがぶつかり合ったりすれ違ったりする現代社会を、石垣りんの言葉の力で照らしてみたい」と、満を持して作曲家が初めて石垣りんの詩に向き合った作品。詩人の比較的明るい詩風のテキストが選ばれている。全5曲。 グレード:中級 演奏時間:約18分30秒
<まえがき> 石垣りん(1920?2004)の詩集は、私が二十代の頃からずっと本棚にあって、時々開いて読み返したりしていますが、作曲してみようと思ったのは本作に取り組もうとしている時期が初めてでした。文学作品には出会うにふさわしい年代というのがあると思うのですが、私にとっての石垣りんは、今だったということでしょうか。石垣りんが最も活発に詩を発表していた年齢と私の年齢が重なったこととも関係しているのかも知れません。 私の場合、詩を読むときにどうしても「作曲する目」で見てしまうのですが、石垣りんの詩の多くは「うた」の作曲には向かないものが多いように思えます。少なくとも、作曲家が好みそうな「抒情」からは距離を取っていて、生きることの現実が暮らしの手触りとともに突きつけられるような詩が多いからです。それでもなお今この詩人に向き合ってみたいと私は考えました。人びとの思いがぶつかり合ったりすれ違ったりする現代社会を、石垣りんの言葉の力で照らしてみたいと思ったからです。 今回選んだ5つの詩は、石垣りんの代表的な詩風から比較すると明るめのものに片寄っており、詩人の全人格を反映した選択にはなっていません。とは言え、ふとした瞬間にペーソスが潜んでおり、ただただ光に満ちているわけでもありません。太陽に照らされている地球の反対側は、深い闇夜なのですから。 どの詩も平明であり解説不要と思いますが、4曲目の「ひめごと」について少しだけ触れましょう。長年銀行に勤めて家計を支えた石垣りんは生涯独身でした。「ひめごと」の中にある「吾子をそだてむ」というフレーズは、創作に掛ける彼女の意志と読めるでしょう。一方、子を持つ女性もそうでない女性も、人間は同じ地平に立ってその人ごとに秘めたる志を育てながら生きているのだ、と読むこともできると私は思っています。合唱曲としてたくさんの人の声を合わせて歌われると、尚更そのように普遍的に読めるのではないでしょうか。(信長貴富)
信長貴富
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