1. 花びらあそび (1’50”) 2. 一番星 (1’56”) 3. 富士山見えた (3’09”) 4. 風鈴りんりん (3’09”) 5. しっぽいろいろ (3’57”) ---------- 平成も残りわずかとなり、少しずつ忘れ去られてゆく昭和の風景。子供の目線によって、その時代の遊びや情景を描いた、懐かしくも楽しく、易しく歌える合唱曲。ピアノ伴奏付き、全5曲。 グレード:初〜中級 演奏時間:約14分20秒 <まえがき> 愛媛県に生まれた小野興二郎(1935年〜 2007年)は母の弟で、私の叔父にあたる歌人であった。 46歳の働き盛りに医療事故により視力の多くを失い、高校の国語教師を辞し、短歌誌「泰山木」を主宰しながら生涯にわたって歌作を続けた。 この曲集に収められた作品は、1990年から91年に興二郎が書き下ろした詩に作曲した《こどもとおとなの童謡集 全33曲》から抜粋したものがもとになっている。 この童謡集は子供と大人が一緒に歌えるように、各節を同じメロディーに乗せた有節歌曲形式で、ピアノ伴奏にもメロディーを含んでいた。興二郎が他界した後、2012年に全ての曲を自由な歌曲形式による大人向けの独唱歌曲として作り直した。この独唱版の何曲かは吉岡あき子氏、洞口晶子氏によって初演されている。これら独唱版から2部合唱で歌えるようにした合唱版「花びらあそび」が上梓されることになった。 合唱パートはソプラノが常にメロディーになっているため、独唱や重唱でも演奏可能である。 10歳で敗戦を体験した興二郎が生きてきた昭和の風景に思いを馳せて、味わっていただければ幸いである。 「花びらあそび」 童謡を作り始めた最も初期の作品。この頃は子供が歌えることを想定していたので、音域も狭い。「なにそめようか…」と思いをめぐらせる時、人はきまって天から教えを乞うように上を向く。その宙に浮いた感じを前奏の主和音転回形で表現した。後半では童心に芽生える大人への憧憬がいじらしい。 「一番星」 夕焼が闇に消えかかる空に突然現れる一番星。わらべ歌のようなメロディーを、子供が口ずさみながら家路をたどる姿が浮かぶ。地球の日常と遥か彼方の星々への思いが交錯する夕暮れ、人は誰でも手を合わせたくなる。 「富士山見えた」 2男6女の次男として育った興二郎の詩には、大家族の賑やかな日常が多く描かれている。この曲は四季の情景を通して日本人が憧れる富士山を、文部省唱歌「ふじの山」の旋律を絡ませながら作曲した。SLに乗ったことのない者でも、なぜか懐かしい高揚感がある。 「風鈴りんりん」 揺れ動く3拍子に涼やかな風鈴の響きをのせてみた。主和音より2度高い調性で始まり、本来の調性に戻る。また場面転換における細やかな転調の技法も追及している。地味な音色のガラス風鈴や、木製雨戸を閉める音も聞こえてくるような昭和の風情を伝えている。 「しっぽいろいろ」 身近に暮らす動物たちのキャラクターを、しっぽの動きで巧みに捉えている。音楽は心浮き立つワルツにのせて、それぞれの動物たちを表現した。人はしっぽを体内に隠したばっかりに、コミュニケーションが難しくなったようだ。(源田俊一郎)
源田俊一郎
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